北川浩の徒然考

私は2016年から成蹊大学の学長を務め、6年間の任期を無事に全うして2022年の3月に退任しました。本ブログは成蹊大学の公式な見解とはまったく無関係なものであり、あくまで社会科学を探求する一人の学者としての北川浩個人の考えを表示しています。

感染者数がなかなか減らないわけ ~検査数抑制の愚行

デルタ株の時の経験から第6波も減り始めれば早いだろうと思われていたにもかかわらず、減り始めてから1か月経ってもなかなか減らない。今回はその背後に潜む検査数の抑制という愚行に焦点を当ててみた。

 ■ 検査数抑制政策 

 本年1月27日に内閣府から各自治体に対して、新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金における「検査促進枠」の取扱いについて」と題する事務連絡が発せられた。

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この事務連絡の中に以下のような記述がある。

検査需要の高まりや検査キット等の供給状況を踏まえた適切な検査実施を 確保するため、各都道府県においては、PCR検査等・抗原定性検査それぞれについて、都道府県内の1日当たりの検査件数を1月第二週(1月10日を含む週)における1日当たり平均検査実績の2倍以内として頂くようお願いします。

 また、これによる1日当たりの検査件数の計画値を内閣官房新型コロナウ イルス等感染症対策推進室に提出して頂くとともに、2倍超とすることが必要となる特別な事情がある場合については、事前に協議を行うようお願いします。

(下線は引用者)

 一日あたりの検査数の上限を定めたものであり、またそれを超える場合には事前に協議が必要としている。露骨に検査数の抑制を図る意図を読み取ることができる。
 ではなぜこのような措置がとられたのであろうか。背景としては、一つには「検査促進枠」と呼ばれる補正予算からの補助金総額の制約があり、もう一つはPCR検査試薬や抗原検査キットの供給不足がある。端的に言うとここまで感染が拡大するとは予想していなかったということであろう。カネもモノも足りないから検査を抑制するというのが先進国の政策とは到底思えない。このような愚行の結果がどういうことになったかを見ていきたい。

 ■ わからなくなった感染状況 

 まず、大阪と東京の状況をみてみよう。下の図は東京都と大阪府の検査数と陽性率のグラフである。

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 内閣府からの事務連絡のあと1月下旬ごろから検査数の伸びにブレーキがかかり、2月上旬からは目立って減少し始めている。重要なのは検査数の抑制にともなって陽性率が跳ね上がっていくことである。PCR検査は通常は5パーセントから10パーセント程度の陽性率を維持しつつ、感染者数をもとにして蔓延の状況を大雑把に把握することを目的としている。したがって、陽性率が上がっているときは検査数を増やすのが通例である。しかしながら、第6波においてはそれとは真逆のことが意図的に行われたわけである。これでは見かけ上感染者数が減ってきても、真の感染者数が本当に減少しているのかどうかわからない。実際、2月上旬からは感染者数が天井にぶつかったまま、天井を這うような状況であったように思われる。このような状況では感染者数の数値の変動にまったく信ぴょう性がないことになる。実際に減ってきたのかどうかは感染者数のデータではなく、それ以外のデータから総合的に判断するしかないことになる。

 ■ やっと減ってきた 

 代替的な指標として有力なものが、東京都においては「東京都発熱相談センターの相談件数」がある。これは感染者の増減を知るための間接指標として早くから注目されてきたものである。

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 データからわかるように2月上旬まで急激に上昇し、その後複雑な動きをした後、2月中旬から徐々に減少に転じている。感染者数だけからすると2月上旬にピークアウトしたと思われがちだが、発熱相談件数の動きからすると、ピークアウトは2月16日ごろと推定するのが合理的であろう。

 それにしても検査数を抑制する政策をとっていたのでは、ウイズコロナなどは到底望むべくもない。ウイズコロナに舵を切ったと言われているヨーロッパ諸国において、例えばデンマークなどでは全国民が週に一度は検査できる検査能力であり、変異のスクリーニングに関しても丹念なゲノム解析を行っている。日本の政策はいかにも場当たり的な感じがする。出口に向かっているとはとても思えない。

未来を創造するためにまずは生き残りましょう。