北川浩の徒然考

私は2016年から成蹊大学の学長を務め、6年間の任期を無事に全うして2022年の3月に退任しました。本ブログは成蹊大学の公式な見解とはまったく無関係なものであり、あくまで社会科学を探求する一人の学者としての北川浩個人の考えを表示しています。

新型コロナ第7波襲来 ~それでも出口(5類移行)をめざして

1週間くらい前から異常なスピードで新型コロナ感染者が増加し始めた。明らかに第7波の襲来である。しかしそれでも今の日本の経済状況を考えれば、社会経済活動を止めるべきではないし、止めることへの社会的コンセンサスも得られないだろう。新型コロナウイルスは撲滅できるものではなく、共存するしかないもののようである。共存に向けたロードマップをつくるべきであり、そのための政府のイニシアチブに期待したい。

 

■ 急激に来た第7波 

 先週から今週にかけて全国的に陽性者数が2倍以上に跳ね上がってきた。7月11日の月曜日の東京都の陽性者数は6231人(前週の月曜は2772人)、12日の火曜日は11511人(前週の火曜は5302人)であり、検査陽性率も30パーセントを上回った。第6波のときもそうであったが、ほとんど垂直に波が立ちあがってくる感じである。陽性率が高すぎるため感染者数が検査数にかなり左右されるため、陽性者数だけを見ていたのでは感染状況を正確に掴むことができない。そこでより信頼性の高いデータとして、東京都発熱相談センターの相談件数をみておきたい。これは発熱等の症状がある人の数の一定割合をリアルに表しているものであり、感染の「傾向」を大雑把に把握するだけであればかなり信頼できるものである。

このグラフから分かるように、7月11日の相談件数は約7500件、直近7日間の移動平均は約5000件である。この数字はほぼ1月末から2月初旬の状況に近いものである。しかし第7波はまだほんの入り口である。したがって今後さらに大きな数字になることが予想される。ピークはおそらく7月末から8月にかけてであろうが、感染者数がどのくらいの数字になるのかは(かなり大きな数字になるだろうが、そのレベルは)予想もつかない。

 ■ BA.5 

 このように第7波が異常なスピードで立ちあがってきたのは、流行の主力がオミクロン株BA5という種類の変異株で、これまでのオミクロン株(BA2など)より感染力が強いものだからである。しかし実際のところBA5に関して解っていることはそれほど多くはない。これまでの株より感染力が強いこと、ワクチンに感染を予防する効果はほとんどないこと、の2つくらいである。ワクチンの重症化を防ぐ効果もすり抜けてしまうのかどうかについてはよくわかっていない。(数千万人の国民が3回も打っているのだから、効果は持続していると信じたいところではある。) 症状としてはこれまでのオミクロン株と同様に肺に届く前にのどの炎症などを引き起こす例が多く、そのため潜伏期間もかなり短い。ただ、のどの炎症であるため健康な若者でさえもせき、たん、発熱などの症状が出てくることが多く、せきなどによりエアロゾル感染することを併せて考えると、相当な感染力になっていると考えた方が良いようである。若者の多くが多少のせきや微熱程度では活動をやめず、学校にもイベントにも出かけていくだろうからである。

 ■ それでも出口(5類)に向けて

 ここまで見てきたように感染者数の観点からは第7波は相当な大きさになることが予想されるが、それでも日本の現状を考えると、今から社会経済活動を止めるような政策はとうてい採用できないものと思う。ここで消費を冷え込ませると、円安によるコストプッシュは続いているため、相当深刻なスタグフレーションに見舞われることは確実だからである。
 以前にも一度書いたように、そもそもはしかを超える感染力を有するウイルスを完全に封じ込めるなどということは始めから不可能である。うまく共存していく道を探っていくしかない。いま医療行政のやるべきことは、夏と冬に年2回流行る「タチの悪い風邪」として季節性インフルエンザと同等の感染症第5類に位置付けるための道筋をつけることである。ポイントは医療崩壊をどう防ぐかということと、重症化しやすい人をなるべく感染させない、あるいは感染しても早期に発見して早期に治療して重症化にいたらないようにすることの2つである。すなわち基本的な骨格は、適切な医療を施せば救えるはずの命は確実に救うことと、社会経済活動を止めないこと(もともと飲食店の時短などは何の意味もない)をいかに両立させるかである。
 以下で私なりのロードマップを考えてみた。

■ 濃厚接触者は特定施設を除いて追いかけない。
 まずリスクの高い高齢者施設や、拡散の核となりやすい学校などを除いて濃厚接触者を追いかけるのをやめるべきである。保健所の労力をここに割くべきではない。第5類に向けての第一歩は無症状の人間を病人扱いしないことから始めるべきである。

■ マスコミはリスクの高い人への注意喚起の徹底
 マスコミは感染者数などを大きくとりあげる報道をやめ、そのかわリスクの高い人とはどのような人か、重症になった人の基礎疾患や年齢などの情報を丁寧に報道すべきである。併せてリスクの高い人は人ごみに近づかないようにするなどの注意喚起や呼びかけを徹底する必要がある。

★迅速診断キットの開発・配布(≠PCR(←補助金
 季節性インフルエンザと同様に安価な迅速診断キットがすべての病院に備えられ、15分程度で結果が判明するシステムを早急に整備すべきである。PCR検査をいつまでも無料で続けることには限界があると思う。また多少症状のある人が病院に行くわけだから、陽性の閾値を厳しくして、検査で陽性となったら確実に陽性であるようにしておくことが大切だと思う。とにかく陽性になった人の動きを止めることを優先すべきである。

墨田区モデル型の地域医療体制を全国に浸透(←補助金
 リスクが高い高齢者などに対して早期診断、早期治療を実現するための地域医療体制の整備が必要である。以前に墨田区モデルを紹介したが、地域の医療の分担を見直して見回り、往診、オンライン診療などの必要な分担や運営体制を全国的に整備していくことが必要である。新型コロナ発生から2年以上が経過し、このようなことを考える時間は十分にあったはずであるが、いまだに一部の自治体でしか進んでいない。政府が補助金をつけて強力に旗振りをすべきである。

救急救命体制の確保(病床と人員の確保)(←補助金
 地域医療体制の整備と同様に救急救命医療の病床や人員の確保も重要である。新型コロナの入院患者があふれる状況になると、他の病気や事故・けがなどによる救急医療が手薄になり救える命が救えなくなるという状況になることは何としても阻止する必要がある。新型コロナ患者を収容する病床のあり方などを抜本的に見直し、必要なら改修工事などに補助金を投下して、可能な限り大規模で迅速な対応を計画すべきである。今後別の感染症がいつまた襲ってくるかわからないのだから。

★経口治療薬の早期開発・配布 (←補助金
 やっと塩野義製薬の治療薬が認可されそうな見通しであるが、安価な治療薬が通常の流通経路で流布するにはまだもう少し時間がかかるかもしれない。しかし治療薬の研究には官学民一体となって総力を上げるべきである。タミフルリレンザのような汎用性の高いクスリが出回らなければ、本当に5類になったことにはならないからである。

★後遺症に関する研究の強化・発信(←補助金
 新型コロナで忘れてならないのは後遺症の問題である。現状では後遺症の全体像、実態がほとんどわかっていない。断片的な情報だけがときどきマスコミを通じてながされるだけである。全世界でおびただしい数の感染者が出続けているわけだから、万一深刻な後遺症が潜んでいる場合には人類全体が極めて大きなダメージを受けることになりかねない。後遺症の研究はかなりの規模で続けられるべきであり、やはり官学民一体で研究できるような体制と予算をつけるべきだと思う。

★可能部分のオンライン授業、リモートワークの恒常化推進(←補助金
 最後になるが、今後新たな感染症の脅威に備えるためにも、せっかくICTを活用した新しい働き方や学び方を経験したわけだから、その良いところを取り入れ、可能な分野や局面ではリモートワークやオンライン授業を恒常化することを考えていくべきだと思う。自粛のためにやみくもにリモートやオンラインをする必要はないが、リモートやオンラインの活用範囲を拡大していくことで密集を減らすことにつながり、新型コロナだけでなくそれ以外の感染症に対しても大きな効果が期待できる。

 これらの施策全体を実行していくためには補助金などによるかなりの予算が必要であるが、それでもできるものから一つずつ前に進むべきである。給付金などをばらまくことに予算をつかっても何も改善されない。

一歩踏み出せば必ず前に進む!