北川浩の徒然考

私は2016年から成蹊大学の学長を務め、6年間の任期を無事に全うして2022年の3月に退任しました。本ブログは成蹊大学の公式な見解とはまったく無関係なものであり、あくまで社会科学を探求する一人の学者としての北川浩個人の考えを表示しています。

気になって仕方がないこと ~新型コロナウイルス後遺症と生殖能力

先日、新型コロナウイルスの後遺症についての記事を書いたが、その中でも気になって仕方がないものがある。それは生殖能力(特に男子)に及ぼす影響である。わが国においても早急にこの真偽を調査する必要がある。もし事実ならば、いま日本でとられている曖昧な政策はとんでもない帰結をもたらす可能性があるからである。

 

 ■ これまでの経過

 もともとのながれは、新型コロナウイルスの感染メカニズムの研究の中ででてきたものである。人間が新型コロナウイルスに感染するのは、コロナウイルスのスパイクとよばれる突起部分が人間の細胞にあるACE2受容体(アンギオテンシンインベルターゼ2)に結合し、たんぱく質切断酵素(TMPRSS2膜貫通プロテアーゼなど)の力を借りて細胞内に侵入し、細胞内を工場として自己複製を開始するというものである。そして、このACE2が多く発現するのが肺、腎臓、精巣などの表層細胞ということである。(心臓、小腸、気管支などにも一定の分布がみられる。)
●ACE2に関する研究の詳細は以下のサイトを参照。

https://www.cyagen.jp/community/newsletters/issue-20200323.html

新型コロナウイルスに関連したACE2は一体どんなものでしょうか? | サイヤジェン株式会社(Cyagen)

上記の論文の中で、執筆者のLiu博士は「ACE2の不全は男性生殖に著しく影響する。そのため、SARS-CoV-2の男性感染者は回復した後で生殖機能を検査する必要である。」と述べている。

 こうした理論的な研究と並行して中国においてある程度の調査が行われた形跡がある。以前引用した以下のサイトの中にある南京医科大学の論文がまず想起される。この論文は146人の新型コロナ感染男性患者の精巣組織の損傷程度を調査したものであり、不妊になる可能性を指摘している。(論文そのものは未定稿であり、医学学術雑誌での査読前のものである。)

  • 以前私のブログで引用したサイト

https://note.com/1wa_karasuneko/n/ne95877c87352

武漢肺炎の気になる情報(ACE2)腎臓と精巣|烏猫|note

  • 論文の原典は以下から入手できる。

https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.02.12.20022418v1.full.pdf

www.medrxiv.org

上の論文の影響を受けたとみられる例として、中国湖北省政府が3月12日に公式ウェブサイトで発表したものがある。この文書の執筆は、、武漢にある華中科技大学同済医学院附属同済病院の生殖医学センター李豫峰教授の研究チームである。この記事では感染経験のある男性に生殖検査を受けるよう注意喚起していた。しかし、このサイトは理由が明らかにされないままその後削除されている。

  • 湖北省の警告文については以下のサイトを参照。

https://www.epochtimes.jp/p/2020/03/52997.html

湖北省政府、中共ウイルスが男性の生殖機能に影響の恐れ 検査呼びかけ

  • また、以下のサイトに全文の翻訳がある。

http://blog.livedoor.jp/kay_shixima/archives/53170957.html

blog.livedoor.jp

3月にはこの話題は中国医学会において盛んに議論された形跡があるが、その後なぜかまったく話題にされなくなっている。中国政府からの何らかの圧力があったのではないかと推測されるが、その後の研究が続けられているのかどうかもまったく情報が外に出なくなっている。

 ■ もし事実なら 

 新型コロナウイルスに感染した男性の生殖能力に何らかのダメージが残るのかどうかは、後遺症の中でも極めて重要なものであり、早急に世界的な調査を行なうべきである。わが国では、問題の性格上、なかなか表向きに大規模な調査を行なうことが難しいと考えられるが、それでも協力者を募って何らかの調査を行なうべきである。もし新型コロナウイルス感染の後遺症として男性の生殖機能へのダメージがあることが事実であれば、感染者を多少拡大しても経済を回そうとするわが国の政策は長期的にみると取り返しのつかない事態を引き起こすからである。例えば平均的に男子の生殖能力の1割程度が失われるとした場合、個々の男子にとっては子供ができる確率が1割低下してもたいしたことではないかもしれない(日常生活に支障はない)が、国家全体としてみると今後数十年にわたって計り知れないダメージを受けることになる。とくに少子化が急伸する日本やイタリアのような国では深刻な事態になる。おそらく最終的には体外受精技術の進歩・社会普及か、または移民政策の転換によって人口減少の危機を乗り越えることになると思うが、それでも社会構造や生活文化に極めて大きな変化をもたらすことになるだろう。新型コロナ感染症拡大を容認する前に、何としても確認しておかなければならない事柄なのではないかと思う。私が気にかかっているこの事案が杞憂であることをひたすら祈るばかりである

未来をつくるためにまずは生き残りましょう。