北川浩の徒然考

私は2016年から成蹊大学の学長を務め、6年間の任期を無事に全うして2022年の3月に退任しました。本ブログは成蹊大学の公式な見解とはまったく無関係なものであり、あくまで社会科学を探求する一人の学者としての北川浩個人の考えを表示しています。

新型コロナウイルスの情報収集は客観的なものを優先して

私は卒業式の式辞で、「人間が危機に直面した時、情報を的確に選び出し、自分の身の回りに起きていることを正確に把握し、自分は今何をすべきかを論理的に考えることが大切」と述べました。ここで新型コロナウイルスに関する情報を整理してみたいと思います。

 ■インターネット上の情報は常に正しいとは限らない。

テレビや新聞などで発信される情報も常に正しいとは限らない。誤った情報ではないとしても、通常は何らかの意図を持って編集されており、読み手の感情を誘導する側面を持っている。例えば感染者が千人を超えた、一万人を超えたなどの節目の数値をセンセーショナルに発信することが多いが(日本のマスコミは初期の頃は、クルーズ船の感染者を合計した数値を真っ先に述べていた)、おそらくわれわれが関心をもたなければならないのは、感染者数の伸びが激しくなってきたのか、あるいは鈍ってきたのかということであろう。あるいはどれくらいの比率で重症化するのか、死んでしまうのか、比率は年齢によってどのくらい異なるのか、などなどである。
 先月あたりにテレビのワイドショーなどでは、「専門家」と呼ばれる人たちがたくさん出てきて、「インフルエンザに毛の生えたようなものだ」「若者は重症化しない」などという「学説?」らしきものを発信した。「新型」のウイルスであり何のデータも実証研究もおこなわれていない状況であるにもかかわらず、「正しくおそれる」などという一見人のプライドをくすぐるようなフレーズに乗せて。基本的にはテレビと政治家の発言を丸ごと信用するのはやめた方がよいと思う。ほとんどの場合何らかの目的や意図をもって情報が発信されているからである。これらの人々は通常は自分の発言の影響を考えながら発言する。そして発言に影響を及ぼす最大の要因が、政治家は選挙の票、テレビなら視聴率であろう。これは当然のことでありことさらにこれを非難するつもりもない。重要なのは受け手の情報処理能力の方である。「誰が」「どこで」「どんな根拠で」「どのような話し方(書き方)」で発信されているのかを、注意深く受け止め、自分自身のことに結び付けることが大切である。

■推奨される情報の取り方とおすすめサイト

 更新されるデータや事実に絶えずアクセスし続ける。新型コロナウイルスに対する情報を整理し、自分自身の問題として考えるために、まず最初に読んでおくべきサイトは、山中教授の以下のサイトであろう。

山中伸弥による新型コロナウイルス情報発信

とくに「エビデンスの強さによる情報分類」のコーナーは必ず一読しておくべきだと思う。なるぼどこんな風に情報を整理するのか、と納得できるものである。一番冒頭に、「今後の対策のため、早急にエビデンスの収集が必要な事項」として、「子供の感染者(無症候もしくは軽症例)から、2次感染がどれくらい起こるか?(休校措置のエビデンスとして必要)」と述べている。つまり子供からの2次感染に関するデータを集めなければ、休校の解除等の判断をすることが難しいということである。
 この他にいくつか数字に関する情報収集のためのおすすめサイトを記載しておく。まず東京都の以下のオープンソースで創られたコロナ特設サイトを見てほしい。

都内の最新感染動向 | 東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイト

 

多くのプログラマーの意見を結集してつくられたサイトで、非常に分かりやすく客観的につくられている。例えば、3282145分現在、感染者362人でこのうち入信している人が315、退院40、死亡7であり、入院315人のうち重症14、軽症・中等症301ということが分かりやすビジュアルで示されている。また、棒グラフで注意深く日付を合わせる必要があるが、325日一日で、コロナコールセンターに659、コロナ受信相談窓口に1064件の相談が寄せられ、このうち検査が実施されたのは95人(108件)であり、陽性と判明したのが41人ということになる。ただし検査件数に保険適応の民間検査が含まれていないことに注意を要するが、現状で民間検査はほとんど進んでいないことを考えれば、相当な陽性確率ということになる。このようなオープンソース型の特設サイトは東京都と同じようなフォーマットで多くの自治体で採用されている。

都の新型コロナ対策サイト、オープンソースで“派生版”続々誕生 全国で30以上、高専生も開発に参加 - ITmedia NEWS

ご自身の居住する都道府県の特設サイトをぜひ見に行ってみてください。
 このほかにややデータ更新のタイミングが遅いが、非常によく整備されたデータとして、東京経済オンラインの以下のサイトがある。

新型コロナウイルス 国内感染の

年代別の感染者状況などが非常に参考になる。「検査が少なすぎるために感染者が抑えられているように見えるだけではないか?」「本当のところ致死率はどれくらいなのか?」これらの質問に対して自分自身の答えを用意するためにが、なるべく客観的なデータをタイムリーに見ていく必要があると考える。私のブログの中で何度か書いたように「専門家」や「政治家」の形容詞のたくさん混ざった抽象的な話をそのまま鵜呑みにして、自分のなすべき行動を決めるのは非常に危険だと思う。これをやって原発事故のときに相当痛い目にあった経験を思い出してほしい。