北川浩の徒然考

私は2016年から成蹊大学の学長を務め、6年間の任期を無事に全うして2022年の3月に退任しました。本ブログは成蹊大学の公式な見解とはまったく無関係なものであり、あくまで社会科学を探求する一人の学者としての北川浩個人の考えを表示しています。

医療崩壊前夜 -時間との闘い=政治家の本領の見せどころ

医療崩壊防止>感染拡大防止>弱者救済>景気浮揚 という戦略優先順位の中で、医療崩壊防止は待ったなしの局面に入った。しかし、動きは緩慢で最初の戦略でつまづいている。このままでは見えない敵との戦争にはとうてい勝てない。政府に激励の喝をいれたい。

 

 ■医療現場の状況

 ★院内感染

、医師看護師不足による病院機能の衰退 救急医療学会からの以下の提言に見られるように、心筋梗塞脳卒中などの一般的に対応しなければならない救急救命機能に支障が出始めている。

www3.nhk.or.jp

院内感染によるクラスターも毎日のように報道されている。このままでは、新型コロナに対応している病院から順番につぶれていくということになりかねない。感染しているかもしれない人を普通の病院に来させないためには、これまで再三述べてきたように、大規模なドライブスルー検査しか方法がない。これを実施するためには運営スタッフの確保と場所の確保である。 

★病床不足

 もともと日本の感染病床は結核対応をメインにして整備されてきた。結核患者の減少に伴い、感染病床も各病院のお荷物になっていた。地方の病院においては特にそうである。新型コロナ以前の2019年4月における感染症指定病院の感染病床数は第一種(103床)、第二種(1758床)にすぎなかった。以下の厚生労働省サイト参照

感染症指定医療機関の指定状況(平成31年4月1日現在)|厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou15/02-02.html

新型コロナ感染拡大に伴って転用等により感染病床を増やしてはいるが、絶対数として足りるものではない。新型コロナ感染病床として使用すれば、全国的にほぼあと数日(もっても1週間)程度で満杯となる。状況については以下を参照。

COVID-19 Japan - 新型コロナウイルス対策ダッシュボード #StopCOVID19JP

新型コロナウイルス 病床ひっ迫は9都府県に NHK調査 | NHKニュース

 

この状況を受けて、東京都をはじめとしていくつかの自治体が、私の記事でもこれまで再三うったえてきたように、ホテル等の宿泊施設を無症状者・軽症者向けの病床として活用し始めた。しかしながらビジネスホテル等の活用だけでは感染の拡大に追い付けない。五輪選手村や大型リゾートホテルなどの利用が最終的には必要になるだろう。ここで最も重要なのは、感染者を収容する病院外施設運用のためのスタッフの確保である。

 ★医療用品、医療機器の絶対量の不足

 感染者の増大に伴って医療用品、医療機器の不足も目立ち始めてきた。医療用マスクの不足はよく報道されているが、ゴーグル、防護服、消毒液などの一般的な用品も不足し始めている。さらに最も有用なことは人の命を繋ぎとめる切り札となる人工呼吸器やECMOが不足し始めるのも時間の問題であることである。エクモについては例えば以下の記事を参照。

news.yahoo.co.jp

 ■大至急やるべきこと 一分一秒でも早く

 私の記事の中で何度も書いているが、これは「見えない敵との戦争」である。通常の経済システムや法体系の中で考えていたのでは、負けるのを待つだけになる。

(1)医療用品、医療機器の量産

民間企業に対する政府の強力な介入が必要。これをやるための緊急事態宣言ではなかったのか。

(2)無症状・軽症者用隔離施設の確保

  政府、自治体の強力な介入が必要。これをやるための緊急事態宣言ではなかったのか。

(3)ドライブスルー検査用地の確保(駐車場、グランド等)

  政府、自治体の強制接収が必要。これをやるための緊急事態宣言ではなかったのか。

(4)上の(2)(3)に必要な要員の確保

  政府、自治体が直接雇用して必要な現場に配置する必要がある。

これらのことをやるには決断する側に相当な勇気が必要である。特定の人々に大きな不利益を生じさせる可能性が高く、責任を負うことに誰しも躊躇したくなるものである。

 ■スピードを妨げる縦割り組織

 決断と実行を大きく妨げているのは縦割り組織である。そもそも新型コロナ対策に当たっているのが経済再生大臣であり、厚生労働大臣は非常に影が薄い。率直な感想として、「何で?」という感じである。戦争にも例えられるほどの国難と言う認識があるのであれば、危機管理大臣を指名しそこに圧倒的な権限を集約して企画立案をし、それを総理大臣が大号令するというのがあるべき姿であろうと思う。もう一つ最近の状況で気になっていることがある。本来官房長官は政府のスポークスマンであるが、最近その機能を果たしていない。総理大臣が非常に細かなところまで話さなければならなくなっている。結果的に全体の会見が非常に長くなってしまい、本当に伝えたいことが国民に伝わらない、あるいは誤解されて伝わるということが頻繁に起こっている。これまでの記事で何度かのべているように、総理の周りにプロのPRerあらゆるメディアを駆使して公衆との間に信頼関係を築くプロフェッショナル)を置くことの必要性を強く感じる。多くの国民が政府や首相の批判をすることでストレスを発散しているようでは、とうてい戦争には勝てない。

最後の呼びかけフレーズを変更しました。

未来を創るために、まずは生き残りましょう。