北川浩の徒然考

私は2016年から成蹊大学の学長を務め、6年間の任期を無事に全うして2022年の3月に退任しました。本ブログは成蹊大学の公式な見解とはまったく無関係なものであり、あくまで社会科学を探求する一人の学者としての北川浩個人の考えを表示しています。

新型コロナウイルスと経済政策

「少し専門の経済学の話もしろ」と言われそうなので、今回は経済政策について考えてみました。おそらく、直接的政策、弱者救済政策、景気浮揚政策、の3つを区別して考える必要があると思います。政治家のみなさんは全部ごっちゃにして話す人が多いですが。

 直接的政策

 新型コロナウイルスに対抗する直接的な政策で、経済やビジネスに関係あるものを考えてみましょう。すぐに思いつくのは、化粧品会社や化学メーカーなどが消毒液を量産するための補助金、製紙会社、繊維会社など(なぜかシャープもマスクつくるようですが)がマスクを量産するための補助金、退職看護師等を一時的に再雇用するための補助金、廃校になった学校や潰れたホテルなどを軽症者隔離場所に改修する公共事業、こんな感じのことが考えられます。もう一つ、自粛や外出禁止の有効性を担保するために、休業や閉鎖を迫られた施設やイベント業者に対する休業補償が重要だと思います。これらは極めて必要度の高い優先的な政策です。

弱者救済政策

 これは新型コロナの拡大により経済的に傷ついている低所得者の救済です。会社を休んだ分の給料の補填という話が取りざたされていますが、それではたぶん本当に助けが必要な人には届かないように思います。基本的に最も重要なことは雇用を守ることです。世界大恐慌のようなものが再来すれば多くの企業が倒れ失業者が街にあふれます。方法は2つしかありません。失業者を吸収する新しい仕事をつくるか、あるいは潰れそうな会社を助けるか、の2つです。短期的に考えると、中小企業特別融資(無利子無担保)をかなりの規模で行うことは必要だと思います。また、外食産業や小売業からかなりのパートやアルバイトが押し出されると思います。外国人の流入がとまることにより農業や建設業がかなりの人手不足に陥る可能性がありますが、失業者をこれらの産業が全部吸収するとは考えにくいように思います。外食産業や小売業への補助金もひつようかもしれません。オリンピック施設の維持管理に積極的にパートやアルバイトを採用していくのも短期的には意味があるかもしれません。

景気浮揚政策

 一律現金給付が今盛んに議論されています。例えば国民一人に10万円配ることで10兆円使うなどです。しかし、これは状況を理解していないのも甚だしいと思います。ましてや商品券を配るなど論外です。弱者救済にも景気浮揚にも何にもならないと思います。こうした一時的な所得はあっても通常それは全部が消費にまわることはありません。たとえ回ったとしても一過性のものです。大恐慌前夜のような状況のなかでは職(仕事)をつくることが景気落ち込みの溝を大きくしないために最も重要なことです。現金のばらまきは選挙の票に結び付くかもしれませんが、この緊迫した状況でそんなものに10兆円も使いしかも赤字国債増発によって将来の世代に押し付けるなどは、まさに亡国の政策だと思います。長期的な視点で産業構造を段階的に変化させていく政策が望まれると思います。いま一番必要なのはこの視点にたった産業政策です。例えば、テレワークシステム推進のための補助金や優遇税制、オンライン授業システム整備のための補助金、強靭な遠隔医療システム構築(健康状態をセンサーで把握し、AIによって異常を検知するなど)のための補助金、オンラインで参加するeスポーツ大会の支援、などなどです。

どうでもよい政策

 日銀の金融政策について一言。金融の量的緩和は結構だと思いますが(金利はこれ以上は下がらないので量的しか武器がない)、ETF(上場投資信託)を大量に買いまくることによって株価を支えるのはやめてほしいと思います。そんなことをするのが中央銀行の役割ではないはずです。株価はそもそも景気が落ち込めば下がり、景気が上向けば上がるものであり、株価が実態とかけ離れた動きをするように中央銀行が介入することには非常な違和感があります。株価の短期的な変動は経済政策的にはほとんどどうでもよいものです。少なくとも株価をターゲットにして政策を行うのは本末転倒だと思います。
 もう一つ、一番どうでもういい政策として、新型コロナが終息した後の政策を今検討することです。和牛チケット、旅行クーポン券、高速道路無料化、政策それ自体の是非は別にして何も今議論しなくても。それにしてもなんで和牛なんだろう。