北川浩の徒然考

私は2016年から成蹊大学の学長を務め、6年間の任期を無事に全うして2022年の3月に退任しました。本ブログは成蹊大学の公式な見解とはまったく無関係なものであり、あくまで社会科学を探求する一人の学者としての北川浩個人の考えを表示しています。

新型コロナウイルス報道の中の「専門家」の性(サガ)

一連の新型コロナ報道の中でよく「専門家」と呼ばれる人たちが登場する。話をきいているとそこかしこに学者としての性(サガ)が垣間見える。

 ワイドショーの中の専門家

 テレビのワイドショーでは連日のように新型コロナをとりあげている。この中に必ずと言ってよいほど「専門家」が登場する。キャスターやゲスト、ときには視聴者などからの質問にも答えている。驚くことにどんな質問でも必ず何か答える。よく考えてみると相手は未知のウイルスでありデータも実証研究もほとんど不十分なはずである。にもかかわらずどんな質問にも回答している。したがって初期のころは(今でも少しいるが)、「インフルエンザに毛の生えたようなものだから心配し過ぎないように」と言っている専門家が少なからずいた。科学的な根拠はほとんどない。感染が拡大している状況では(定常状態における)致死率を推定することは難しい。何せ未知のウイルスなのだから。にもかかわらず、なんでも回答してしまうのは、人前でなかなか「わかりません」と言えないのが学者の性(サガ)だからである。しかし、人の生死を左右する問題を語っているわけだから、ここは一つ深呼吸でもして「わかりません」と答えてみてはどうでしょうか? それで二度とテレビに呼ばれなくなってもいいじゃないですか?

 専門家会議の中の「専門家」

 3月19日に政府の頼みの綱である専門家会議からの見解が発信された。前からそうであるが、「クラスター」「オーバーシュート」などのカタカナの専門用語が並んでいる。とくに「オーバーシュート」は十回以上出てきている。「専門家会議」は専門家の集まりであるから、中ではいくら専門用語を使ってもかまわないだろう。しかし国民に何かを発信する場合は、なるべく日常用語ではなすべきである。とくに今回のように、子供から高齢者まであらゆる層の国民が関心をもってかたずをのんで聞いているわけだから。ところが相手が誰であろうと、なかなか専門用語を崩したくないのが学者の性(サガ)である。これは日常用語に言い換えると正確さを欠いてしまうケースがあることと、専門用語が多い方が人々が権威を感じてくれると錯覚していることの二つの要因に起因することが多い。ここは、専門家会議の結論をベースにして、国民に語りかけるのは、その道のプロである政治家にまかせてみてはどうでしょうか? もっとわかりにくくなるような気もしますが・・・・・・。「クラスター」や「オーバーシュート」は今年の流行語になるかもですね。実はこの言葉、経済学の中にもあるんですけど・・・・・。