北川浩の徒然考

私は2016年から成蹊大学の学長を務め、6年間の任期を無事に全うして2022年の3月に退任しました。本ブログは成蹊大学の公式な見解とはまったく無関係なものであり、あくまで社会科学を探求する一人の学者としての北川浩個人の考えを表示しています。

新型コロナウイルスが人類につきつけているもの

新型コロナウイルスの世界的な拡大は、これまで人類が築き上げてきた社会構造や価値観に対して激しい戦いを仕掛けてきている。 一つはグローバライゼーション、もう一つは国連を中心に推進されているSDGs(持続可能な開発)の根本精神である「誰一人取り残さない」。

 

グローバライゼーションは砂上の楼閣だったのか?

日本にクルーズ船が接岸して新型コロナの対応に奔走していたとき、欧米から日本への強い批判が寄せられ、欧米に在住する日本人に対する差別や偏見がみられた。東南アジアでも一部に日本人を忌避する動きがあった。 いまや世界にウイルスが蔓延する事態になり、欧米諸国はほとんど鎖国状態に入った。
経済活動は国境を越えなくなった。グローバル化を支えてきた留学生の交流もほとんど封じられようとしている。欧米諸国で東洋人の迫害や差別が起き始めている。この状況の中で、世界は協力してウイルスと戦えるだろうか? インターネットや電話などの通信手段によって、人類は精神的なつながりを保てるか? あるいはグローバル化は単なる経済的な結びつきにすぎなかったのか? 
グローバル化バベルの塔であり、新型コロナが終息したときに人類はばらばらになっているのだろうか? 新型コロナウイルスは、人類が本当に民族や国境の壁を越えて協力し合えるのかどうかを、われわれにつきつけているように思える。 人類は試されている。

世代間の相克の中で崩れ去るSDGsの精神

 新型コロナウイルスの致死率は、完全に把握されていないものの、70歳以上では10パーセントを超えてかなりたいかいものであり、逆に30歳いかぐらいでは1パーセント未満であろうとするのが、大方の見方である。だとすると、高齢者にとってはほとんどペスト並みに恐ろしい病気であり、若者にとってはインフルエンザに毛が生えた程度のものであろう。
●これにもとづいて木村太郎氏のような「姥捨て山」的な怒りの主張がでてくる。

木村太郎氏 生出演中の番組に苦言 新型コロナめぐる内容に「許すことが出来ない」― スポニチ Sponichi Annex 芸能

●他国においても例えばトルコでは65歳以上の人の外出を禁止した。

トルコ、65歳以上の外出禁止 - Yahoo!ニュース

●極めつけはイタリアのトリアージ、事実上80歳以上の人は助けない。

新型ウイルス治療、80歳以上は切り捨て? 医療崩壊危機のイタリア(The Telegraph) - Yahoo!ニュース

新型コロナウイルスは、世界的に世代間の激しい相克を生み、「世界を持続的に発展させていくためには犠牲になる人がいてもやむを得ない」という感覚を人類の中に芽生えさせようとしている。
 人類はこのウイルスのささやきに打ち勝つことができるのか? SDGsの根本精神である「誰一人取り残さない」を守ることができるのかをわれわれにつきつけている。人類は試されている。