北川浩の徒然考

私は2016年から成蹊大学の学長を務め、6年間の任期を無事に全うして2022年の3月に退任しました。本ブログは成蹊大学の公式な見解とはまったく無関係なものであり、あくまで社会科学を探求する一人の学者としての北川浩個人の考えを表示しています。

CS(クライマックスシリーズ)は必要か ~スポーツ本道と興行収入の葛藤

今年の日本のプロ野球は、セリーグではヤクルトと阪神パリーグオリックスとロッテがそれぞれ最後まで熾烈な優勝争いを繰り広げ、各チームが死力を尽くして最後まで戦い抜き、両リーグとも前年最下位チームの優勝という形で決着した。コロナ禍の中にあって例年になく面白いシーズンになった。しかし、これからまた3位のチームも含めて日本シリーズ進出チームを決めるシリーズCSが始まる。普通に考えると興ざめとしか言いようがないが、なぜCSがあるのか、今回はこの問題を掘り下げてみたい。

 ■ CSの価値 

 まずなぜCSがあるのかについて整理しておきたい。もともとポストシーズンには日本シリーズしかなかった日本のプロ野球において、興行収入を上げるためにアメリカを手本にして企画されたものである。特に観客数が少なかったパリーグにおいて、古くは前期後期の2シーズン制にして、それぞれの優勝チームがプレーオフを行うというやり方が試された。サッカーのJリーグなどでも採用されたことがある。一定の合理性があると思われるが、試合日程が立て込んでしまうこと、前後期同一チーム優勝の場合にプレーオフ興行がなくなること、独走するチームが出てくると消化試合が大量に出てくることなど、マイナス面も大きかった。とりわけ前期に独走するチームが出てくると、他のチームは後期に賭けようとして前期の試合は後期に備えるための準備ゲームになってしまう。これらのマイナス面を解消するために、パリーグでは2シーズン制をとりやめ、1983年から通年シーズンとし、しかもプレーオフ興行収入を残すために1位から5ゲーム差以内であればシーズン終了後に1位2位でプレーオフを行うという制度を導入した。きわめて不合理不条理な制度であり、激しい非難にさらされた。こんなことをすると優勝の意味がほとんどなくなってしまうからである。この制度は3年間続いたが、結局批判に耐えきれず1985年を最後に廃止となった。ちなみにこの3年間はいずれも首位のチームが2位以下を5ゲーム以上離して独走したためプレーオフは行われなかった。

 しかし、ポストシーズン興行収入を上げたいというのは日本のプロ野球界(とくにパリーグ)の悲願であり、21世紀に入ってからも、2004年から3年間パリーグで現在のCSの原型となるプレーオフが1位~3位のチームによって実施された。このプレーオフはかなりの興行収入を上げたため、翌年の2007年からはセパ両リーグでクライマックスシリーズが導入されることとなった。

 ■ アメリカのポストシーズンゲーム 

 それでは日本のお手本になったアメリカのメジャーリーグポストシーズンゲームはなぜ盛り上がるのだろうか、最も重要なことはアメリカでは同一リーグであっても球団ごとに対戦相手の組み合わせが異なるため、当該年度で一番強かった球団を決定するためにプレーオフを行うことに決定的な合理性があることである。ここでメジャーリーグの詳しい仕組みを解説することは長くなりすぎるので割愛するが、一つだけ例を挙げておこう。大谷翔平の所属しているエンゼルスアメリカンリーグ西地区に属している。各地区に5チームあり、全米では30の球団がある。ア・リーグ西地区5チームは総当たり(各19試合)だが、他の地区のチームとの試合やナ・リーグ球団との試合の組み方は同じア・リーグ西地区の球団でも球団ごとに異なっている。例えばア・リーグ西地区1位だったアストロズドジャースと4試合しかしていないが、エンゼルスは6試合行っている。したがって単純に勝率だけを見ていても「本当はどちらが強いのか」を確定させることができないのである。このため各地区の勝者同士でプレーオフを行うだけでなく、3球団以外で勝率1位のチームにワイルドカードプレーオフ出場権)が与えられている。当該年度の一番強いチームを決めるための非常によく考えられた制度である。
 他方において、日本のプロ野球では同一リーグ内の球団ごとに対戦相手ごとの試合数が異なるということはない。つまり同じ条件で勝率を競って優勝チームを決めているわけであり、アメリカとはプレーオフの意味合いがまったく異なり、ほとんど合理的な説明はつかない。

 ■ 興行収入と「潔さ」の葛藤 

 日本のプロ野球のCSが極めて不条理なものだとして、やめてしまえばそれでよいということになるだろうか。CSはたとえ数試合ではあっても、進出したチームにとっては極めて重要な収益源である。日本シリーズはホームとビジターが3試合ずつで7戦目の売り上げは両チーム折半となるが、CSはホームチームの総取りとなる。2位と1位のチームは少なくとも数億円の収入があると推測される。簡単には失いたくない収入である。しかし興行収入だけのためにスポーツの本道である「フェアに勝者を決め、負けたチームは潔く勝者を称える」という「潔さ」の側面をかなぐり捨ててよいのか、という批判は当然でてくる。特に今年の3位の巨人のようにシーズンで負け越しているチームが「日本一をめざしてがんばる」と言っている状況をみると、なんのためにこれまで143試合やってきたのかと言いたくなるのは当然のことだろう。

 ■ 代替的方策の提案 

 それではどうすればスポーツの本道と興行収入確保の両立を達成することができるだろうか。有効と思われる代替的な提案を行ってみたい。プロ野球コミッショナー周りの人たちの目に入ることを願っている。提案内容はJリーグや大相撲などでも行われているトーナメントによるカップ戦の創設である。3月に「〇〇カップ」を設け、前年の1,2位のチームをシードとしてトーナメントを行うやり方である。1試合ずつであればほぼ1週間で優勝チームを決めることができる。興行権は前年シーズンの上位チームが持つことにすればシーズンで上位をめざすモチベーションにもつながる。これを3月に開催すればドラフトで採用した新人のお披露目にもなり、相当な興行収入が期待できる。現在のようにだらだらとオーブン戦を3月に行うよりよほど意味があると考える。問題があると思われることについては少しずつでも改善していく努力をしていくいことが大切だと思う。少なくとも議論をすることは続けてほしい。

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