北川浩の徒然考

私は2016年から成蹊大学の学長を務め、6年間の任期を無事に全うして2022年の3月に退任しました。本ブログは成蹊大学の公式な見解とはまったく無関係なものであり、あくまで社会科学を探求する一人の学者としての北川浩個人の考えを表示しています。

9月入学を考える3 - 手段と目的が入れ替わっていないか

議論のながれが明らかにおかしい。いま何の議論をしているのかがわからなくなってしまっている。いま解決しなければならない課題のソリューションがまったく出てこない。しつこいようですが、声をあげないといけないので、またまた念押しの記事を書かせていただきました。

 

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 ■ 何の議論をしているのか 

先日文部科学省は、小学校1年生の入学時期をずらすための2つの案を提示(リーク?)した。

9月入学、文科省が2案例示 新小1対象範囲、課題多く(朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース

 なぜ最初に出てくるのが小学校入学時期の検討なのか? 何のために9月入学の議論をしているのかがわからなくなってしまうような動きである。
 あらために、解決しなければならない問題を整理してみる。
★ 公立の小中高ではオンライン授業は8~9割方まともに行えていない。子供たちの失われた3か月をどうとりもどすのか。
★ 中学3年生、高校3年生にこのまま一発勝負の入試を受けさせるのか。
★いつまた新型コロナ第2波、第3波が襲ってくるかわからない状況で、上の2つの問題を解決しながら教育をどう守っていくのか。

 ■ 明確な優先順位にもとづく公表を

 文部科学省や政府は、やらなければならないことの優先順位を明確にして、それぞれの課題に対するソリューションを示していくべきである。上の3つの課題を急いで解かなければならないわけだから、公表する最初のものが小学校入学時期ではないはずである。
 まず最初にやるべきことは、すべての教育機関におけるオンライン教育の確立である。2学期、3学期は普通に授業ができる保証は何もないわけだから、これなしには何の改革も意味をなさなくなる。
 そのうえで、高校3年生が大学に入学する時期を弾力化したり、複数回の受験機会を設けたり、大学の入学定員厳格化を一時的に緩和したり、などなど様々な可能性を検討すべきである。
 文科省は各教育委員会に高校入試の出題範囲を縮小する案を提示したと伝えられているが、そうであるならば新しい範囲はどこであるのかを、とにかく早く示さなければならない。併せて、その子供たちが高校に入学した後に、中学3年生の範囲を埋められるような高校側の体制を組む必要がある。
 同じように大学入試のやり方を変更するのであればなるべく早く発表しなければならない。

 最終的に9月入学が最も良い解決法ならばそれでも良いが、少なくとも9月入学それ自体は目的ではない。始めに9月入学ありきの議論をしていたのでは、時間ばかりが過ぎていく。

 解決すべき問題に立ち戻って、徹頭徹尾「子供たちの将来のために」という視点で、昼夜を徹して議論してほしい。今はそういう時期である。

未来を創るために、まずは生き残りましょう。