北川浩の徒然考

私は2016年から成蹊大学の学長を務め、6年間の任期を無事に全うして2022年の3月に退任しました。本ブログは成蹊大学の公式な見解とはまったく無関係なものであり、あくまで社会科学を探求する一人の学者としての北川浩個人の考えを表示しています。

第6波襲来(1) ~オミクロン株の感染力

12月まで鎮静化していたが、ついに第6波に突入し始めた。これから第6波の特徴を順を追って考えながら、新型コロナ終息に向けたシナリオ(そんなものはないかもしれないが)を考えていきたい。今回第一弾として、オミクロン株の感染力に焦点を当ててみたい。

 ■ オミクロン株の感染力

 日本でもオミクロン株が猛威をふるいはじめている。とりわけ米軍から持ち込まれたと思われる沖縄や山口県岩国市などは目を疑うようなスピードで拡大している。医療関係者など普段感染防止に気をつけている人たちでさえ、相当な勢いで感染し始めている。異常な感染力であることが想像できるが、実際どの程度異常なのであろうか。

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上の表は、感染症の基本再生産数(R0)を比較したものである。表をご覧いただければわかるように、オミクロン株は、これまで最強の伝播性を持つと考えられていた麻疹(はしか)を凌駕している可能性がある。したがって、オミクロン株は人類がこれまで遭遇したあらゆる病原の中で、最強の伝播力を有する可能性があるものである。

【出所】
この表は以下を参照して、私が新型コロナの数値を加筆したものである。
「麻疹排除計画における検査診断の重要性について」(国立感染症研究所ウイルス第三部 駒瀬勝啓)

http://idsc.nih.go.jp/training/22kanri/22pdf/sep16_01.pdf

https://www.covid19-yamanaka.com/cont1/43.html

  • オミクロン株の感染力がデルタ株の3倍との推定は以下の記事を参照。

https://www.cnn.co.jp/usa/35181652.html

 ■ わかっていること、いないこと

  感染力が高いというだけでむやみに恐れる必要はない。実際、オミクロン株はデルタ株に比べてかなり重症化しにくいと言われている。ただしこれがワクチンを2回接種したことの効果なのか、それともオミクロン株そのものの性質なのかは必ずしも明らかではない。また、異常な感染力のためか、感染の入り口にあたる上気道(鼻、喉、気管)に感染部位が集中しており、肺の奥に感染が広がり肺炎を起こすケースが非常に少ないことが確認されている。ただし、少ないだけであってまったく肺炎を起こさないわけではないし、またデルタ株などがもっていた血管の内壁を損傷したりする効果があるのかないのかについてはわかっていない。さらには、後遺症がどの程度残るのかについてもまったく未知数である。つまりわかっていないことの方が多いのである。逆にわかっていることとしては、ワクチンを2回打っていても、全く関係なしに感染してしまう(ワクチン回避効果)ことである。このため、3回目、4回目とブースター接種が推奨されていく根拠となっている。

 ■ 懸念すべきこと

 オミクロン株で最も懸念されることは、異常な感染力のために生じる感染者数の急増である。感染段階でオミクロンかデルタかを簡単に識別することはできないため、すべてを自宅待機にしてしまうと、デルタ株であった場合にはかなり危険なことになる。かといってすべて入院させるとあっという間に病床がひっ迫する。線引きがかなり難しいが、さしあたり宿泊療養施設を十分に確保して対処することが望ましいと思われる。

 もっとも深刻なのは、医師、看護師、保育士、介護士、警察官、消防士などのエッセンシャルワーカーの呼ばれる人たちの集団感染である。これが発生すると、たとえ症状そのものは軽くても、感染者は仕事をすることができなくなるため、社会生活に深刻なダメージを引き起こしかねないことである。「感染しないように気をつけましょう」という掛け声をかけても、史上最強の感染力の前では、個人が多少努力しても限界があると思う。さしあたり、マスク、手洗い、人ごみには近づかないなどを心掛けるしかないが、それでも感染爆発は止められないと思う。対策については稿をあらためて論じたいと思うが、カギを握っている指標は、重症者数の増え方と、医療、介護、教育現場のクラスター発生度合いであろう。
未来を創造するためにまずは生き残りましょう。