北川浩の徒然考

私は2016年から成蹊大学の学長を務め、6年間の任期を無事に全うして2022年の3月に退任しました。本ブログは成蹊大学の公式な見解とはまったく無関係なものであり、あくまで社会科学を探求する一人の学者としての北川浩個人の考えを表示しています。

もはやコントとは言っていられない ~ 旭川市の惨状を考える

12月9日に旭川市で新型コロナによる7名の死亡が確認されたと報道された。人口35万人の旭川市の規模を東京の規模に補正すると約40倍、じつに280人の人が亡くなったことになる。ついに自衛隊が派遣されることになったが、しかし驚くべきことにGoToキャンペーンの発着から旭川市は除外されていない。チグハグの極致であるが、もはやコントなどと悠長なことは言っていられない。旭川市で起きたことは全国のどこでも起こり得る。明日は我が身として掘り下げて考えてみた。

 

■  旭川市の状況変化

旭川市で大規模な病院関連クラスターが発生し始めたのは11月初旬のことで、市が正式にクラスターという表現を使ったのが11月16日である。この段階で吉田病院の感染者数はすでに60名を超えていた。相次ぐ病院クラスターにより深刻な看護師不足が発生し、市の対応が遅すぎると吉田病院理事長が旭川市長を批判したのは12月1日のことであるが、この段階で旭川市の一日の感染者数が50名近くに跳ね上がっていた。東京の規模に補正すると、一日に2000人の感染者が出た計算になる。これでも北海道も国も自衛隊派遣には容易に動かなかった。医療崩壊が進み、死者も増え始めた12月7日にようやく自衛隊派遣に向けて行政が動き出した。

 

11月6日

・感染者6名、市内の小中学校2校臨時休校

11月8日

・初めてのコロナ感染者死亡確認

・市立旭川病院でも感染者確認

11月16日

旭川市コロナ対策本部、慶友会吉田病院のクラスターを認める。

・この時点で吉田病院関連の累計感染者61名

・療養宿泊施設の増設を北海道に要請

11月24日

旭川厚生病院でもクラスター確認(同日12名の陽性者)

11月30日

クラスター病院の現地と保健所と基幹病院を繋ぐ役割を担う専門家を派遣を北海道に要請

12月1、2日

・1日の感染者急増(過去最多の)46名

医療機関福祉施設、スポーツ施設など市内8か所のクラスターを確認

吉田病院理事長が市の対応の遅れを批判、市に自衛隊要請したが却下。

・これに対し市側は、道の決定に従ったと釈明

12月5~7日

・5日、看護師不足の補強の必要性を対策本部で確認

・6日、「午前10時に、北海道に対して看護師の派遣要請を行ったところでありますが、午後1時に、北海道としては困難であるとの見解が示されました」(市長記者会見より)

・7日、自衛隊派遣要請を決定、国および道に意向を伝える。

12月9日

自衛隊員5名到着、医療活動開始

・吉田病院、厚生病院の感染者数は両方累計で400名を超える。

・この日、7名の死亡を発表

 

自衛隊派遣の意味

知事が自衛隊の派遣要請を行うのは、天変地異その他の災害の際に、人命や財産の保護のために必要と認める場合であり、自衛隊法第83条第1項に以下のように定められている。

第八十三条  都道府県知事その他政令で定める者は、天災地変その他の災害に際して、人命又は財産の保護のため必要があると認める場合には、部隊等の派遣を防衛大臣又はその指定する者に要請することができる。

 要するに、非常事態に際して自衛隊の派遣を要請するものある。今後大阪でも問題になるであろうが、伝染病等に関して自衛隊の派遣要請がなされるのは、非常事態、緊急事態で他に有効な代替手段がないことが前提であり、感染症拡大期に自衛隊が来ているにも関わらず市民が飲み歩いているなどということはそもそも定義矛盾または行政不作為である。自衛隊出動に伴って、市内全域がロックダウンされてしかるべきだし、短期間で終息させるという緊張感が市内全域に存在しているはずである。そうでないと自衛隊が単なる便利屋、人材派遣業者の扱いになってしまう。これは日本のガバナンス構造を考えると極めて重要な問題である。実際、自衛隊病院はコロナ患者を受け入れて運営されており、看護師を無尽蔵に派遣できるわけではない。それでも自衛隊の派遣要請をするからないは、市民全員が緊急事態を意識すべきである。本来自衛隊は便利屋でも人材派遣業者でもないが、中央政府がこのことを意識しているかどうか。日本という国の未来を考えるうえで重要な局面で、この緩み切った政権は依然として旭川でGoToを続けるのであろうか。

未来を創るために、まずは生き残りましょう。