北川浩の徒然考

私は2016年から成蹊大学の学長を務め、6年間の任期を無事に全うして2022年の3月に退任しました。本ブログは成蹊大学の公式な見解とはまったく無関係なものであり、あくまで社会科学を探求する一人の学者としての北川浩個人の考えを表示しています。

当たってほしくない仮説~紫外線と新型コロナウイルス

最近紫外線照射装置によって新型ウイルスを撃退できるという研究成果が相次いで発表されている。新型コロナウイルスが紫外線に弱いことは早くから指摘されていたが、いよいよ実用化段階に入った。しかし、この紫外線とウイルスの関係性の証明はわれわれに好ましくない仮説の可能性をつきつけている。

 

 ■感染者数の動きと紫外線 

 

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 多くの人が疑問に思っていることだと思われるが、7月末から急激に感染者数が拡大下にも関わらず、なぜ8月半ばごろからピークアウトし、横ばいまたは低下傾向を示しているのはなぜなのか? 8月に帰省をはじめとして若干の自粛が見られたものの、4,5月に比べれば人の流れや接触が制限されていたとはとても言えない状況である。それにもかかわらずなぜピークアウトしたのか? 

 上の図は気象庁の紫外線の強さを表すUVインデックスの今年の推移である。梅雨の入りが遅れしかも長くなった今年は、7月の紫外線指数が5,6月に比べてかなり落ち込んでいる。8月は平年に戻り1年で最も紫外線の強い季節を迎えた。両方を考え合わせると、感染者が7月半ばから急増したことも、大した自粛もしないのに8月半ばにピークアウトしたことも、「紫外線量の強弱で説明がつくのではないか。」という仮説が浮上してくる。

 代表的な感染拡大数理モデルにおいて、感染力の強さを決めている係数(微分方程式や差分方程式の遷移的な拡大を決めている基本的な係数;仮にこれをβと呼んでおこう。)の値は、通常は人流の大きさ(接触頻度)によって決まっていると考えられている。したがって、感染を止めるには人の流れ、人の接触を制限するしかないという結論になっている。3月ごろのよく取り上げられた西浦モデルで「人の流れを8割減らさなければ感染が止まらない」といった言説もここから導き出されている。しかしもし、βを決める要因が人の接触頻度のほかに紫外線が強力に影響しているとすると、かなり話はちがってくる。5月から6月にかけて強力に感染者数が抑え込めたのは、緊急事態宣言による自粛と紫外線量増大の影響であり、また8月半ばにピークアウトしても高どまっているのは紫外線量だけの影響で自粛をしていないからということになる。

 ■ 仮説に基づいた今後の予想 

 紫外線量および行動自粛のそれぞれがどの程度βに影響を及ぼしているかを分解して数値化することは難しいが、少なくとも傾向を予想することは可能である。

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上の図(2019年のUVインデックスの推移)を見るとわかるように昨年並みで推移するとすれば、紫外線量は10月に急激に低下し(おそらく今年で言えば3月と同水準)11月、12月とさらに低下していく。行動自粛の程度が今と同程度(ほとんど自粛していない)だとすれば、「新しい生活様式」が多少奏功したとしても、11月下旬ごろには少なくとも8月上旬を上回る数字になることが予想される。

 政府の方針では重傷者向け医療にシフトしていくとのことであるが、秋冬に向けた医療体制の拡充はできているのだろうか。人的拡充、物資の供給ルート確保、そして何よりも現場を支えるしくみづくり、などやるべきことはたくさんある。順調に進んでいるのだろうか。大事になってから対策を考え始めるのがこれまでの日本政府の仕事の仕方であったように感じられるが、今回はそれでは済まないような気がする。たとえ空振りであったとしても、大規模な対策を打ち出すべきである。

 ■紫外線照射について一言 

 最近アメリカや日本の研究でも222nm(ナノメートル)の波長の紫外線の照射によって、30秒でウイルスのほとんど、1分で完全にウイルスを除去できることが明らかになっており、紫外線照射装置を実用化していく動きがある。

「入り口で20秒」ウイルス死滅させる新装置も アメリカで注目の“遠紫外線”効果

この波長の紫外線はほとんどオゾン層等で遮断されるため、自然界にはほとんどといってもよいほど存在していない。われわれが普段浴びている紫外線のほとんどが315~400nmのUVAと呼ばれる波長の長い紫外線であり、それより波長の短いUVB(280~315nm)は数パーセントである。これより短い波長の紫外線を浴びることは普段はほとんどない。222nmの紫外線は皮膚の表面で止まり皮下に到達しないため、人体に影響はないとされている。ただしこれは即時的な健康上の影響すなわち皮膚や目に対する機能的な損傷がないということに過ぎない。遺伝子レベルで5年後10年後に何らかの影響が出てくるかどうかについては何も保証されていない。このような状況を考えると、紫外線照射装置の実用化は、人感センサーを逆作用させて、人がいないときに点灯し、人がいるときには点灯しないようにしておくことが安全性の見地からは正しい措置のように思える。

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