北川浩の徒然考

私は2016年から成蹊大学の学長を務め、6年間の任期を無事に全うして2022年の3月に退任しました。本ブログは成蹊大学の公式な見解とはまったく無関係なものであり、あくまで社会科学を探求する一人の学者としての北川浩個人の考えを表示しています。

アフターコロナを考える3 ~ スーパー台風のことも忘れずに

アフターコロナを考える際に、一極集中vs地方創生という国土デザインは大きなテーマになるが、その際に忘れてならないのが「防災対策」を軸にした「国土強靭化」である。とりわけ近年台風の強大化によって、毎年甚大な被害が発生している。南海トラフ地震発生の不安もささやかれているが、毎年ほぼ確実に日本を襲うスーパー台風対策抜きに、国土強靭化は語れないであろう。

 

 ■ 台風とマスコミ報道 ~ 目の前に迫った台風10号(ハイシェン)を考える 

 9月2日現在、日本では沖縄から九州の西に迫っている台風9号のニュースでもちきりである。 しかしその東側に台風10号になろうとしている熱帯低気圧のことがテレビで取り上げられることはほとんどない。少なくとも危機感をもって伝えられることはほとんどない。ところが、ヨーロッパ中期予報や米軍予報では、この台風10号はかなりの確率で日本列島を直撃し、しかも(予想誤差が大きいかもしれないことを承知で書くと)伊勢湾台風第二室戸台風に匹敵するほどの史上最悪の台風になってしまう可能性を秘めている。
https://climate-action-now.jp/10gou-2020-tamago/

climate-action-now.jp


しかし日本の気象庁の慣例により熱帯的圧の状態では予想進路等は公表しない。マスコミ各社も早くから危機感をもって報道することはまれである。日本に近づく前日くらいにようやくトップニュースになる。これはなぜであろうか。

 一つには確実に日本のどこかに上陸することが明らかにならないうちはニュースバリューが小さいと考えているからであろう。 それではなぜ新型コロナは致死率などのその正体が不明な段階でトップニュースで扱い続けたのであろうか。 両者の差は被害の規模や深刻度ではなく、被害の範囲である。 台風の被害は進路周辺に限定されており、自分には関係ないと考える人が日本の中に大勢いるからである。視聴率をベースにして番組構成を考える民間放送では、長時間を台風の予想に割くことは難しい。 もう一つは「台風の被害はだいたいこのくらいだろう」という楽観的な予想を立てやすいこと、また報道による呼びかけが「避難してください」以外にほとんどないことも影響している。 したがって、およそ1週間後に日本を襲う台風がいかに強大になる予想があっても、マスコミが新型コロナのように連日時間を割いて国民に呼びかけることは今後もなかなか起こらないであろう。

 ■ 国土強靭化に向けて報道すべきこと

 台風の予想や対策の呼びかけなどの報道が直前にならざるを得ないとしても、本来報道機関あるいはジャーナリズムがやらなければならない役割はもう一つある。それは、台風の被害が拡大した原因の検証を各機関に迫り、その結果適正な対策が立てられたかどうかを確認し、その対策が実施されているかどうかを監視することである。つまり台風に対するPDCAである。 千葉で大規模な停電を引き起こした台風、関西空港を水没させた台風など、近年の被害に関して原因検証と対策が十分にとられたとはとうてい言い難い。電柱埋設計画等も大きく進んだとは言えず、高潮対策等も全国的レベルでは対策が進んでいるとは言えない。これらの台風が想定外であったとしても、これから来るすべてのスーパー台風を想定外とすることはできないはずである。

 国土デザイン全体の設計図を描く場合に、防災の観点は避けて通ることができないものであり、「一極集中VS地方創生」を考える際にもはずしてはならないものであると思う。自然との共生をある程度取り入れるとすると、防災上住宅を建ててはいけない場所に住宅を建てないなどの思い切った考え方も取り入れながら国土強靭化を考えていくべきではないかと思う。

未来を創造するためにまずは生き残りましょう。