北川浩の徒然考

私は2016年から成蹊大学の学長を務め、6年間の任期を無事に全うして2022年の3月に退任しました。本ブログは成蹊大学の公式な見解とはまったく無関係なものであり、あくまで社会科学を探求する一人の学者としての北川浩個人の考えを表示しています。

コロナ禍から「不動産」を考える

先日書いた私の記事の中に「不動産価格の暴落」を予言したような文言があり、周りから多少(買い時はいつになるかなどの)質問を受けた。長期的な趨勢について述べたものであったが、かなり誤解されやすい表現だったと反省している。ここでは新型コロナ拡大とアフターコロナを見据えながら、「不動産」について広く考えてみたい。

 

 ■ 不動産価格の状況

 そもそも不況下でストック価格が下落するのは自然なことであり、現在の新型コロナ感染拡大下においても経済活動低迷に伴う下落は当然に発生する。問題はニューノーマルパラダイムシフトが不動産価格の長期的な趨勢に影響を及ぼすかどうかである。テレワーク推進や間引き出勤などの影響で、「広いオフィスは必要ない」という流れが広がっている。

www3.nhk.or.jp

さらにITスタートアップ企業ではオフィス不要論も出始めている。サイバー空間上に立派なオフィス(クラウドオフィス)をもてば駅に近いリアルな空間に、高い家賃を払ってオフィスを持つ必要がない、という考え方である。
忍び寄るオフィス不要論 コロナ後も「在宅」 需給に影 ドワンゴは全社員1000人 :日本経済新聞
 これらの流れが長期的に続くかどうかは、前回書いたニューノーマル」が「ビフォーコロナ」に引き戻されてしまうかどうかにかかっている。そして、引き戻されるかどうかは、日本的な営業スタイルや許認可のクモの巣などが変革されるかどうかにかかっている。これからも「オフィスは都心に密集していた方が営業がやりやすい」のか、「霞が関に近いところにいた方が便利なことが多い」のかスタートアップ企業にとってはどうでもよいことかもしれないが、老舗企業にとっては、かなり重要な判断になるかと思う。

 個人的に若干ヒヤリングしたところでは、不動産供給側もそれほど将来動向を読み切っているわけではないようであり、風当たりは強くても、いまだ賃料値下げの動きは見せていない。実際のところ、現段階では全国主要都市のオフィス空室率は4月に若干の上昇を示してはいるが、賃料は依然として強含みに推移しており、下げに転じる兆候はそれほど見られない。(以下参照)
●全国主要都市のオフィス賃料と空室率

主要都市のオフィス市況・相場 | 賃貸事務所の仲介なら三幸エステート

 それでは、住宅価格はどうであろうか。首都圏では住宅に関しては若干弱含みになりはじめているように見える。
●都内の新築一戸建てマンション価格動向
一戸建て価格推移 | 市況レポート | 東京カンテイ

 将来所得の不確実性が増している状況では、自動車や住宅などの大型消費がためらわれるのは当然であり、住宅価格が上昇に転じることは少なくとも1年~1年半はなさそうに思える。その先(アフターコロナ)がどうなるかは、人々の今日中に対する価値観が変化するかどうかにかかっている。

 ■ 私自身の例

 少し話が横道にそれるが、私自身が30年前に居住地を選んだときのお話をしたい。私が最も重視したのは、防災と子育てであった。周囲の人たちが通勤の便を重視して居住地を選択する状況であったが、あえて自分自身の通勤時間を多少犠牲にして(私自身が極度に朝型であるため朝早く電車に乗ることが苦にならないので)、防災や子育てなどの生活環境に徹底的にこだわった。防災マップや地震被害想定図を徹底的に比較し、さらに徒歩5分以内に小学校や、スーパー、小児科や内科などがあるかどうか、などを徹底的に調べた。結果的にあくまで結果的にではあるが、2011年のときも、度重なる大型台風にも、そして今回も、「生活」という点だけに限っていえばそれほど辛い状況にはなっていない。

 ■ これからの若者は価値をどこに置くだろうか

 もしアフターコロナにおいて、接待営業が消滅し霞が関とのしがらみを断ち切れるのであれば、クラウトオフィスをメインにしても企業機能は維持できる状態になる。もし霞が関とのしがらみが多少存在していたとしても、それ用の人を数名都心においておけば十分ということになる。
 こうなるとこれまで都心のオフィスに出勤していた普通の社員は、極端に言うとどこに住んでも構わないことになる。そうであれば文字通り自分自身の価値観に合わせて居住地を選べばよい。釣りが好きな人は海辺かもしれないし、山登りが好きな人は内陸かもしれない。
 都心までの通勤時間や駅からの距離などの物理的な制約から人々の居住が解放されることによって、これまでの自然成長する都市とは全く別の都市形成が可能になるかもしれない。例えば、自動運転車で買い物や病院に行き、ドローンで必要なものが配送されてくるような人工都市が、名前も知られていないような地域にこつ然と出現するかもしれない。すべては現在のコロナ禍を新しいステップにするかどうか、若い人たちのエネルギーにかかっていると思う。

未来を創造するために、まずは生き残りましょう。