北川浩の徒然考

私は2016年から成蹊大学の学長を務め、6年間の任期を無事に全うして2022年の3月に退任しました。本ブログは成蹊大学の公式な見解とはまったく無関係なものであり、あくまで社会科学を探求する一人の学者としての北川浩個人の考えを表示しています。

9月入学を考える2 - 徹底的に高3受験生の視点で

小学校から大学まで一斉に9月入学にすることは、混乱と社会的負担が甚大である、これが反対論の最大の根拠、しかし高校3年生にとっては、このまま受験に突入するのは許容範囲を超えている。ではどうすれば。「大学受験を控える高校3年生のために」を徹底する方向で次善策を考えてみた。

 
 ■ 受験生に生じる(生じている)問題

 以前の記事で述べたように、現状において公立高校ではほとんどオンライン授業はできていない。3月の高校2年の最後のまとめが行えず、さらに3年生の最初の学期も空白になりそうな状況である。
 高校3年生にとって最初にくる受験機会は、推薦入学とAO入試(総合型選抜)である。9月には高校内に指定校推薦の募集が張り出され、募集が始まる。10月には高校内における推薦生徒の選考が行われる。このとき3年生1学期の成績はあってないようなものだろうから、高校2年までの成績でほとんど勝負がついている
 また、AO入試は通常は10月に出願期間が設定され、11月に選考が行われる。活動報告書や調査書の特記事項が重要になる入試であるが、いまの状況では3年生の1学期には全くと言ってよいほど活動履歴がない。多くの資格試験や検定試験なども延期は中止になっている。したがってこれも高校2年までの活動履歴が勝負になる。もっとも最近のAO入試はかなり学力重視に傾いているので、学力テストに賭けることは可能かもしれない。
 一番問題なのは、2学期以降においてもいつまた新型コロナ拡大が起こるかもしれない状況なので、1月の共通テストやその後の個別入試に向けてじっくり勉強するなどという心理状態にはとてもなれないことである。一発勝負の共通テストに賭けるなど怖くてとてもできない実際問題として、新型コロナが蔓延していても1月2月の入試を窓全開で行なえるとは到底思えない

 したがって、普段なら一般入試で勝負していたような層(高校2年までの成績がかなり良い生徒)も、雪崩を打って推薦入学やAO入試に流れ込んでくる可能性が高い。大学側から見ると、入学定員厳格化の影響で、推薦やAOでとり過ぎてしまうと、一般入試に回せる定員がほとんどなくなってしまう。このことを見越した高校進路指導担当者や塾や予備校などは万難を排して生徒たちに推薦やAOを勧めてくるだろう。この状況を回避するためには、文科省が早めに今年度に限り入学定員厳格化を緩和することを宣言する必要がある。秋ごろになって後出しすることは絶対に許されない。
 ところで、定員厳格化が緩むとどういうことが起きるであろうか。推薦やAOが多少超過になったとしても冬の一般入試にある程度の定員が残ることになるため、一般入試の倍率が多少軟化することになる。高校3年生でまともに勉強できていない現役生と比較すると圧倒的に浪人生が有利になる大学側では入試科目や出題範囲を今から変更することができないからである。(もし、変更したとすると、それこそ大混乱を引き起こす。例えば数学Ⅲを課していた理学部が今年は数学Ⅱまででよいと今から発表することを想像してほしい。) 現役学生が不利になるということは、さらに意外な現象を引き起こす可能性がある。それは、大学1年生の中で不本意入学と感じている学生たちにとっては、大学を受けなおす絶好の機会になることである。なにせ現役高校生が圧倒的に不利な入試だからである。

 ■ 高校3年生目線で考える次善の策

 つまり、いまのままで秋、冬の入試を迎えると高校3年生にとってはとても可哀そうな状況になるわけである。これを回避するためには、大学だけでも入試時期を遅らせるしかない。考え方が2つある。一つは、この学年だけ大学の入学時期を9月にすることであり、もう一つは大学全体(小中高は4月入学のまま)を恒久的に9月入学にすることである。

 ★ 2021年度入学生のみ一時的に9月入学にする案

 社会的コストがもっとも低く抑えられる案である。2021年4月には大学1年生が全く入ってこないため、大学に対して何らかの補助金は必要である。(新入生50万人、平均授業料40万円で試算すると約2000憶円) 共通テスト5月GW、個別入試(私立5月下旬、国公立6月初旬)までの間、3月4月に高校3年生はみっちり補修学習ができる。推薦入学者選考を3月にすれば高校3年生の成績がフルに活用できる。
 しかし、よいことばかりではない。2022年度には、また4月入学に戻すとすると、2022年度4月~7月には、2021年9月入学生の1年次後期授業と2022年4月入学生の1年次前期授業が並立することになる。完全セメスタ制(同じ授業が年間2回転する)をとっている大学では難なく対応できるかもしれないが、それ以外の大学では1年次の授業を担当する教員が2倍働くことを意味しており、しかも教室や時間割がパンクすることが容易に想像できる。諸大学の現状から考えると大混乱することは必至であろう。(もっとも2022年になってもオンライン授業がふんだんに取り入れられていれば、教室や時間割の問題はクリアできる。教員さえ2倍働けば解決できることになる。)

 ★ 大学だけを恒久的に9月入学にする案

 大学の学年歴を2021年度だけ17か月とし、新入生の受け入れを9月から始めるやり方である。ただし大学4年生は就職との兼ね合いで3月卒業と8月卒業のどちらでも選べるようにしておく必要がある。このやり方をとるとすべての大学生の半期分の授業料を国が面倒みる覚悟が必要である。いわば全学生を半年留年させるようなものだからである。(ざっくり試算すると約300万人の学生で平均授業料40万円とすると約1.2兆円程度である。) 
 このやり方をとると、グローバル標準から1年遅れになるとの批判があるが、その問題は、意欲も能力も高い生徒を高校3年の9月から飛び入学できる制度を広範囲に認めることでほぼ解決できると思う。
 小学校から高校2年までの学習の遅れについては、さしあたり現在文科省が考えているように少しずつ時間をかけて取り戻していくという考え方になろうと思う。状況次第では、1か月ずつずらしていき5年後にすべてを9月入学にすることも可能かもしれない。あるいは、小学校1年生から9月入学にしていき12年後にはすべて9月はじまりの学校歴にすることもできるであろう。いずれにしても時間をかけて対応していく計画をつくることができるだろう。

 ここまで徹頭徹尾高校3年生の受験生に焦点を当てて考えてきたが、いずれにしても(どんな結論であっても)最も大切なことは早くきめてあげることである。日本政府が、明日の日本を担う子供たちのために(大人の都合ではなく)最善の方策を昼夜を徹して考え抜いてくれることを切に願う

未来を創造するために、まずは生き残りましょう。